放送大学をやってる労務者の日記

放送大学の科目履修生からはじめてついに全科履修生になった労務者の記録です

夏の読書 - Delphi Classicsで英米小説を大量に読む

英米文学で古典を読もうとしたときに、真っ先に思いつくのはPenguin Classicsだった。老舗の出版社で種類も多く、テキストの信頼性も高いと思っていたので。でもパブリック・ドメインで読めるテキストを買うにしては、ちょっとお高い。紙の本で買おうとすると、日本ではそう簡単に欲しいタイトルが手に入るものではない。Project Gutenbergやarchive.orgに行けば無限に英語の本が読めることは知っていたけれど、いざやってみると長続きしない。なんというか、生のデータをポンと渡されても、コンテクストがわかっているのか、ちゃんと読めているのか確信がない。データの質もファイルによってまちまちなので、ストレスがある。そういうところが長続きしない理由だったと思う。

もっとお手軽に、20世紀の英米文学も、すぐに、大量にサクサク読めるものがないかなと思って探していたところ、Delphi Classicsという出版社の電子書籍を見つけて、リピート購入するようになった。

Delphi Classicsは、パブリック・ドメインになった英米文学を中心に、作家の電子版全集をたくさん出している電子書籍の専業出版社で、イギリスに本社があるらしい。Apple Booksのストアで本を検索しているときにその存在を初めて知った。

今はセールをやっていて、Adventure、Thrillers、Fantasy and Sci-Fiのジャンルで本を1点買うと、もう1点が無料になる。今日はレイモンド・チャンドラーダシール・ハメットの全集をサイトから買ってみた。2点で価格は$2.99だった。安い。さっそくチャンドラーのThe Big Sleepから読んでいる。面白い。

すでにパブリック・ドメインになっていて、読もうと思えば無料で読めるコンテンツにお金を払って買うことにどれほどの意味があるだろうか。最初はそんなふうに思っていたが、買ってみて、これはいいものだ、お金を出すだけの付加価値がると自分は思った。

まず、編集がそれなりにしっかりしている。学問的にどれだけ厳密な校定をやっているか、自分は英米文学が専門ではないのでよくわからない。たんに作品を読んでみたい側の人間として言うと、テキストが読みやすい。安心して読める。それから、各作品の冒頭にそれなりに丁寧が解説がついている(小説のネタバレを含んでいるので、自分は本編を読み終わった後に読むことにしている)。さらに、作家の肖像や、ゆかりの地の写真など、参考となる画像が入っている。専門的な作家研究の原典としては使えないかもしれないけれど、初心者にはとても優しい本づくりをしていると思う。パブリック・ドメインのテキストをこのクオリティに仕立ててくれるならお金を払ってもいいと自分は思うほうだ。編集は確かに付加価値なんだなと思う。

それから、全集がポケットに入っているというのは気分がいい。今すぐには買った作家のテキストを全部は読まないかもしれないけれど、いつか読むかもしれない。電子書籍での積ん読だ。持っていれば、読んで新しい発見をする可能性がある。持っていなければその可能性はゼロだ。とりあえず代表作を読んでみて、あとはさらに興味がわけば、という程度の心持で全集を持っていられるのは心強い。紙の本だと、全集は保管スペースを圧迫してしまうので、買うのは大きな決断になるけれども、電子書籍でそういう心配をする必要はない。

Delphi Classicsは一度電子書籍を購入すると、epubでもKindleのmobiでもダウンロードできるようになっており、データにはDRMがかかっていない。なので特定のデバイスやアプリに縛られず読み続けられる。自分はepubiCloudに置いてiPhoneのBooksアプリで読んでいる。iPhoneで読むとわからない単語の辞書が引きやすいのでいまのところ不満はない。(紙の辞書を頑張って引かなくても単語の意味がすぐにわかる。これはいまとなっては当たり前の体験だけれど、一昔前はそうではなかったことを思い出す。iPhoneでわからない単語を調べながら読むと圧倒的に早いので、自分のように英語のレベルが高くなくても読書体験に没入できる。辞書を引くために読書を中断するのは大きなストレスだったのだと今になって気づく。)

それからなんといってもDelphi Booksの全集ものはどれも価格が安い(せいぜい2ドルから6ドル)ので、買って失敗してもあきらめがつく。なのでいろいろな作家へ積極的に手を出そうと思えるようになった。興味の赴くままに広く浅く読んでみたい。